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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6566号 判決

原告

豊嶋三知生

ほか一名

被告

平和タクシー株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告豊嶋三知生に対し金一、四八四、五〇八円、原告衛藤滋二に対し金六四、八〇〇円および右各金員に対する昭和四二年六月二九日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告豊嶋三知生(以下原告豊嶋という)に対し金二、六二八、七二八円、原告衛藤滋二(以下原告衛藤という)に対し金九〇、一〇六円および各金員に対する昭和四二年六月二九日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、被告平和タクシー株式会社(以下被告会社という)はタクシー営業を営むものであり、被告山口昭二(以下被告山口という)は運転手として右会社に勤務するものである。

二、昭和四〇年三月二五日午前八時一〇分頃、原告らは自家用普通乗用車(ヒルマンDX六二年型。品五す〇五一七)を原告衛藤が運転し、原告豊嶋が同乗して、東京都千代田区九段一丁目一二番地先交叉点において信号待ちのため神田方面に向け停車していたところ、被告山口運転にかかる被告会社所有の事業用普通乗用車(品五あ六六九九)が相当の速度を以て原告らの乗用車の後部左側に激突した。しかも偶々原告らの車の前にトヨペットクラウン外一台の車が既に停車していたため、原告らの車は前後から車に挾まれ車軸もねじれ、中央部を中心にへの字状に盛上り大破したのである。

三、右追突事故により原告ら車両の助手席に同乗していた原告豊嶋は頸椎鞭打損傷を蒙り、その結果めまい頭痛、吐気、全身倦怠感、腕、脚のしびれ、筋肉痛、関節痛等を惹起すると共に極度の精神不安、記憶力の減退を生じて殆ど活動不能の状態に陥り、事故後二ケ年を経た今日に於ても心身の機能が完全に回復していない。

原告衛藤も頭部を打ち、頸の筋肉を痛めた。

四、右事故は専ら被告山口の過失に起因するものである。

被告山口は右事故当時酔払つたようにフラフラしており、喋り方もロレツが廻らぬ様な状態であり、附近の交番で原告ら立会のもとに警官に対して供述したところによれば前日の勤務が午前二時に終つてから酒四合とブロバリン一五錠を飲んで被告会社仮眠所で寝たのであり、午前七時に起きて乗車したものであるが、本件事故直前に自車の前に単車が割込んで来たような気がしたのでしやくにさわつてアクセルを吹かしたところ突込んでしまつてかかる事故を惹起したものである。要するに被告山口は事故当時幻覚すら生じ兼ねない状況で運転していたもので、したがつて前方に停車中の原告らの車両を注視することもできず暴走して追突事故を惹起したものである。

五、本件事故により原告豊嶋の受けた損害は次の通りである。

(一)  治療費

1 病院支払分

(1) 慈恵大附属病院支払分

(年月日) (金額)

四〇・一〇・二 一〇〇円

四一・二・一五 二〇〇円

二・一五 一、〇〇〇円

二・一五 三、四九六円

二・一五 一、四八〇円

三・四 一、六二〇円

三・四 三、六三六円

三・一六 三、六三六円

三・一六 二、二四〇円

三・一六 八四〇円

三・二三 一、一四〇円

三・二三 二〇〇円

三・二三 一、〇〇〇円

三・二五 六、一四〇円

四・六 六四〇円

四・六 二、二四〇円

四・六 一、〇〇〇円

四・二〇 四、四四四円

四・三〇 六、二二六円

六・一五 一、五〇〇円

六・一五 六、〇三二円

六・二九 四四〇円

七・二三 一四〇円

七・二五 七四〇円

七・二五 三、三〇〇円

小計 五二、五三〇円

(2) 代々木病院支払分

四一・一二・二九 二七二円

四二・一・五 二、八〇四円

一・六 四九円

一・一〇 七六八円

一・一三 三五八円

一・一九 三一九円

一・三〇 三二〇円

二・一〇 三〇九円

小計 五、一九九円

合計 五七、七二九円

2 薬品代

四〇・五・一〇 アリナミン三、〇〇〇錠 三〇、〇〇〇円

四一・五・二〇 コントール 八〇〇錠 一〇、〇〇〇円

四二・一・九 アリナミン 八〇〇錠

ヘクサニシツト 一、〇〇〇錠

コントール 八〇〇錠}一八、〇〇〇円

アサヒ薬局 二〇〇円

八五〇円

八五〇円

日比谷ファーマシー 三〇〇円

竜生堂 三〇〇円

〃 一七五円

〃 一八〇円

〃 二〇〇円

〃 三〇〇円

〃 六一五円

盛成堂薬局 二五〇円

四一・一一・一〇トクホン、セデス他 五〇〇円

一一・二五 トクホン 一六〇円

一二・三 セルシン、ユベロン他 三、九〇〇円

四二・一・二六 コントール外 九一五円

合計 六七、六九五円

(二)  交通費

通院ならびに仕事のためタクシー、ハイヤーを使用した。原告豊嶋の通院した病院は左記の通りである。

四〇・三・二五―二六 厚生年金病院

三・二七―七・二三 篠田外科病院(代田橋)

七・二三―現在 慈恵大附属病院

また原告は住所を事故当時より左記の通り移転している。

四〇・三・二五―九・三〇世田谷区代田

四〇・一〇・一―四一・三・一四杉並区阿佐ケ谷

四一・三・一五―現在 府中市(現住所)

交通費の内訳は左の通りである。

四〇・三・二五 二、六六〇円 自宅(代田)~厚生年金病院(飯田橋~事務所)五反田~自宅ハイヤー使用以下同じ

三・二六 三、二〇〇円 自宅~事務所~厚生年金病院~自宅

三・二七 五、六〇〇円 自宅~事務所往復及び得意先廻り

一八 三、〇六〇円 得意先廻り、篠田外科行

二八 一、五〇〇円 仕事のため高知行の飛行機

キャンセル代

三〇 二、三〇〇円 通勤兼篠田外科行

三一 七、七五〇円 通勤及び得意先廻り

四・一 三、四〇〇円 通勤(往復)

二 三、八〇〇円 〃(待時間を含む)

四・三 二、三〇〇円 通勤(但し片道タクシー)

五 五、六〇〇円 通勤及び得意先廻り

六 一、九〇〇円 通勤(但し片道タクシー)

七 二、八〇〇円 〃

八 一、七〇〇円 〃(但し片道タクシー)

九 四、〇〇〇円 〃及び得意先廻り

一〇 三、五〇〇円 通勤

一二 二、七〇〇円 〃

一三 六〇〇円 〃(但し片道タクシーのみ)

一四 一、〇〇〇円 〃(往復タクシー)

一五 三、五〇〇円 〃

一六 一、八〇〇円 〃(但し片道タクシー)

一七 七〇〇円 〃(但し片道タクシーのみ)

一九 一、九〇〇円 通勤(但し片道タクシー)

二〇 一、七〇〇円 〃(〃)

二一 一、八〇〇円 〃(〃)

二二 三、八六〇円 〃

二三 二、七〇〇円 〃

二六 三、〇〇〇円 〃

二七 一、九六〇円 〃

二八 三、〇〇〇円 〃(一〇、七二〇円を減縮)

三〇 四、〇〇〇円 〃及び得意先廻り

五・一 二、二〇〇円 〃

四 三、二〇〇円 〃

六 六、八〇〇円 通勤及び得意先廻り

七 七、二〇〇円 〃

五・八 四、四〇〇円 通勤及び得意先廻り

一〇 四、三〇〇円 〃

一一 二、六〇〇円 〃

一二 三、一〇〇円 〃

一三 三、〇〇〇円 〃

一四 一、七〇〇円 〃

五月後半車一括借賃 一七、五〇〇円

六月分一括借賃 三五、〇〇〇円

七月分〃 三五、〇〇〇円}訴状記載分を半額に減縮貸主が原告豊嶋の実弟である点を考慮した。

なお七月頃より症状が激しく出はじめた。

八・三 一、五〇〇円 通勤

八・一三 一、八〇〇円 通院自宅~慈恵大

九・一 五、〇〇〇円 通勤及び得意先廻り

〃 三〇〇円 右駐車代

六 一、四二〇円

二一 一、九〇〇円

二五 一、五八〇円

二九 一、六〇〇円}通院代田(自宅)~慈恵大往ハイヤー、復タクシー

一〇・二 二、〇〇〇円

五 二、〇〇〇円

一二 一、八〇〇円

一九 一、八六〇円

一一・二 一、九八〇円

一二・九 二、六三〇円

三〇 一、九六〇円

四一・二・一五 一、九〇〇円}通院 阿佐ケ谷(自宅)~慈恵大 往ハイヤー復タクシー

三・四 一、八八〇円

九 一、七六〇円}通院 阿佐ケ谷(自宅)~慈恵大往ハイヤー復タクシー

一六 三、二〇〇円

二三 二、六〇〇円

二五 二、四六〇円

四・六 二、五四〇円

二〇 二、七四〇円

二七 二、八八〇円

五・二六 三、〇〇〇円

六・一五 三、〇〇〇円

六・二九(六・一九と訂正する)三、〇〇〇円

七・二 三、〇〇〇円

七・二二 三、〇〇〇円}通院府中(自宅)~慈恵大往ハイヤー復タクシー

七・二三 三、三〇〇円

二五 三、〇〇〇円

二六 三、〇〇〇円

二七 三、〇〇〇円

一一月中旬 二、八五〇円

一二月初旬 三、〇〇〇円}通院府中(自宅)~慈恵大往ハイヤー復タクシー、以下同じ

一二・二九 二、二〇〇円 府中(自宅)~代々木病院

三〇 二、二〇〇円 〃~慈恵大(片道)

四二・一・五 二、二〇〇円

六 二、二〇〇円

八 二、二〇〇円

一〇 二、二〇〇円

一三 二、二〇〇円}府中~代々木病院

四二・一・一九 二、二〇〇円

二六 二、二〇〇円

二・一〇 二、五〇〇円}府中(自宅)~代々木病院

合計 四一五、七五〇円

(三)  栄養品代

四〇・七・九 丸石果実店 一、一八〇円

七・二三 高野 九八〇円

八・六 八百源商店 三、〇五〇円

九・二九 千疋屋 七二〇円

一〇・二九 〃 一、七四〇円

一一・四 みどり 六五〇円

一二・三 ワタナベ果実店 一、一〇〇円

一二・二六 高野 八七五円

一二・二七 中川本店 三、〇三二円

四一・二・二二 シブヤ食品 二、八九五円

三・四 〃 一、七三五円

合計 一七、九五七円

(四)  見舞品代

原告衛藤は原告豊嶋の取引先の息子さんでたまたま運転を依頼して本件事故に遭つたものであるから、原告豊嶋は左記の通り見舞品を贈つた。

四〇・三・二八 ニュー千疋屋 二、二〇〇円

七・一六 ボン 一、四五〇円

九・二二 虎屋 七〇〇円

一一・二七 アマンド 一、六五〇円

一二・二一 モンモランシー桜 七二〇円

合計 六、六二〇円

(五)  事故関係者打合費用(お茶代)

四〇・四・七 ニューパウリスタ 三二〇円

四・九 武蔵野茶廊 二〇〇円

四・一四 ヴイクトリア 四四〇円

四・一五 つかさ 一八〇円

五・二一 まるやま 三一〇円

二七 門 四〇〇円

六・一五 ヴイクトリア 三〇〇円

二六 カルネドール 五二〇円

七・五 秋林 二八〇円

一二 ロコ 四〇〇円

八・一四 白十字 六〇〇円

九・八 ロコ 三〇〇円

一六 レストラン・イノヤマ九二〇円

四一・二・一〇 千疋屋 一〇〇円

合計 五、五九〇円

(六)  休業損失

1 原告は事故当時株式会社宣伝技術サービスの代表取締役として右会社の経営に当つていた。右会社は広告宣伝の企画、調査、作成を事業種目とし、資本金は五〇万円従業員は九名居り、得意先として日本コロンビア株式会社などがあつて企業として発展途上にあつたが、専ら原告個人の信用、創意、活動力に依存するものであつたから、原告が本件事故により前述の如く、殆ど活動力を奪われるに至つたので右会社も運営不能に陥り昭和四〇年九月には整理をせざるを得ない段階に立至つた。

2 原告は事故当時、右会社からの給料として毎月左の通り収入があり、右会社は昭和四〇年八月迄は右給料の支払をなすことができたから、原告豊嶋の損失は同年九月以降となる。

本給 一〇〇、〇〇〇円

(控除額)

健康保険料 一、六三八円

厚生年金 一、六五〇円

所得税 九、七〇〇円

差引 八七、〇一二円

3 ところで本件事故による、原告の当該宣伝企画サービスの仕事における労働能力、活動力の喪失率は左記の通りである。

(1) 四〇年三月より四一年七月まで労働能力は一〇〇パーセント喪失。この間一七ケ月。但し四〇年八月迄は現実に給料を取得し得たから十一ケ月が完全に右給料相当額を取得し得なかつた期間となる。

(2) 四一年八月より同年十一月まで四ケ月。六〇パーセント喪失。

(3) 四一年十二月より四二年一月まで二ケ月。五〇パーセント喪失。

(4) 四二年二月より同年四月まで三ケ月。四〇パーセント喪失。

以上により原告の労働能力の喪失量は一五・六ケ月相当分となり、したがつて原告の得べかりし利益の喪失は合計金一、三五七、三八七円となる。

(七)  慰藉料

原告は前述の如く、鞭打症という現代医学を以てしても適切十分なる治療法のない傷害を負わされ、その事業は破滅させられ、毎日を極度の精神の不安と苦痛の中で過して来たのである。

しかも現在においても心身の機能は完全に回復していないのであるから本人の蒙つた精神的苦痛は甚大なものでありこの精神的損害は金七〇〇、〇〇〇円に値する。

(八)  以上原告豊嶋の蒙つた各損害は合計すると金二、六二八、七二八円となる。

六、原告衛藤の受けた損害は次の通りである。

(一)  治療費

1 慈恵大附属病院支払分

四〇・四・六 一、〇〇〇円

〃 六〇〇円

四・三〇 脳波テスト 六、二二六円

小計 七、八二六円

2 薬品代

アリナミン六〇〇錠 三、八二六円

1 2合計一〇、八二六円

(二)  栄養品(果物)代 五、〇〇〇円

(三)  交通費

1 通院費

四〇・三・二六 厚生年金病院 五、〇六〇円

二九 篠田外科病院 二、五〇〇円

三一 〃 二、五〇〇円

四・二 〃 一、八六〇円

五 〃 二、〇〇〇円

六 〃 二、二〇〇円

七 〃 一、九八〇円

(以上ハイヤー使用)

二一 〃 七二〇円

二三 〃 一、〇八〇円

二五 〃 七二〇円

五・一九 〃 一、二六〇円

四〇・四・六 慈恵大附属病院 八〇〇円

四・三〇 〃 一、八〇〇円

五・四 〃 一、八〇〇円

(以上タクシー使用)

小計 二四、四八〇円

2 通学費

四〇・四・一〇―五・三一 武蔵工業大学

通学日数三五日 一回タクシー二八〇円

小計 九、八〇〇円

1 2合計 三四、二八〇円

(四)  慰藉料

原告衛藤の通院日数は十四日に及び、学校(武蔵工業大学)は昭和四〇年四月二二日より同月二九日迄欠席した。医師は長期欠席を勧告したが、学業の都合上無理をして通学したもので、事故後の肉体的苦痛の点を含め精神的損害は金四〇、〇〇〇円に値する。

(五)  以上原告衛藤の蒙つた各損害は合計すると金九〇、一〇六円となる。

七、本件事故は被告山口の過失に起因するから、右被告に対しては民法七〇九条により、被告会社に対しては加害自動車の運行供用者として自動車損害賠償保障法第三条により夫々前記の損害額の賠償請求をなすものである。

第四、請求の原因に対する答弁

一、請求原因第一項は認める。

二、第二項中、同項記載の日時、場所において、被告山口の運転する被告会社所有の事業用普通乗用車が原告らの乗用車に追突したことは認めるが、その余の事実は争う。

三、第三項は、傷害を負つた事実は認めるが、その程度につき争う。

四、第四項は否認する。

五、第五項については全部争う。

第五、証拠関係〔略〕

理由

一、請求原因第一項の事実、同第二項のうち同項記載の日時場所において、被告山口の運転する被告会社所有の事業用普通乗用車が、原告衛藤が運転し、原告豊嶋が同乗していた乗用車に追突したことは当事者間に争いがない。右争いのない事実によれば被告会社自賠法三条により、被告山口には前方注視義務に違反した過失が認められるので民法七〇九条により、原告らの次の損害を賠償すべき義務がある。

二、〔証拠略〕によれば次の事実が認められる

(一)  原告豊嶋は本件事故により頭部打撲症兼頸部背部両下腿並びに膝関節部打撲症の傷害を受け、事故直後厚生中央病院で診察をうけ、二、三回通院、昭和四〇年三月二八日から同年六月二五日までの間八回に亘り篠田外科に通院し治療を受け、同年七月二四日より東京慈恵会医科大学附属病院神経科佐治医師の治療を受け、昭和四二年一月から同年八月頃まで代々木病院に通院治療をうけ、現在も月一回位佐治医師に治療をうけていること。

(二)  原告豊嶋の症状は、前記篠田外科通院中は頭痛、吐き気、身体のほてり、疲れ易い、肩こり、頸筋の痛み等があり同年四月七日の脳波検査により後頭部ならびに右側頭に鋭波が出没していたためドンビリン錠の投与を受け、昭和四〇年六月二三日の篠田外科の脳波検査では脳波はほゞ正常となつた旨診断され、同年七月一九日付の同外科の診断によれば「同年七月三一日治療見込、後遺症はないものと認む」とされた。しかしながら、原告豊嶋には目まい、吐気、記憶力減退があつたため、前記慈恵会大学佐治医師の診断をうけたところ、頭部外傷後遺症として昭和四〇年七月三一日の脳波検査において主として前頭・頭頂部にびまん性に徐波が出現、脳波所見の判定は異常とされ、記憶力検査の結果も不良とされ更に安静休養を指示され、昭和四一年二月一五日現在、めまい、耳鳴、頭痛、背痛の身体症状が残存し、精症状としては健忘、注意集中困難、思考・判断の速度低下は尚継続。昭和四一年三月九日現在、健忘は殆んど以前と同じく、無気力感、焦燥等がみられる。頭内もうろう感は改善しはじめた。記銘力検査の結果は若干改善をみせる。同年三月二五日、脳波検査によると依然として、前頭・頭頂に徐波がびまん性に出現、判定は異常。同年四月六日現在、意欲低下、健忘、思考・判断の停滞は尚残存する。めまい、耳鳴、周囲動揺等は若干改善してきた。抑うつ状態改善のため抗うつ剤の併用を開始。同年四月二七日現在、肩こり、背痛、頭痛の若干の改善をみる。同年六月一五日現在、身体症状。頭痛、めまい、右上下肢の脱力発作。精神症状。意欲低下、各種精神活動の停滞、特に高度の理解を必要とする場合の速度低下。記憶力の低下がみられ、それ以後も月一度位佐治医師に治療をうけ、ときたま脳波検査を受けることがあつたが、昭和四二年四月も吐気、めまいがあり、しびれ感があり、昭和四四年八月頃にも脳波異常があるとされていること。

右認定事実によれば右の原告豊嶋の症状は本件事故によるものと認められる。

三(一)  〔証拠略〕によれば、原告豊嶋は慈恵会大附属病院治療費として同原告の請求する五二、五三〇円を超える金額を支払つたこと、代々木病院の治療費として同原告の請求する五、一九九円を超える金額を支払つたこと、薬品代として同原告の請求する六七、六九五円を超える金額を支払つたことが認められ、以上の合計は一二五、四二四円となる。

(二)  〔証拠略〕によれば同原告は本件事故による通院のためのタクシー・ハイヤー代および同原告の仕事のためのタクシー代等の交通費として請求書、領収書のあるもので五六、二五〇円を支払い、この他に相当の交通費の出費があつたことが認められるが、この中には相当因果関係の認められない部分もかなりあるので、交通費の総額として本件事故と相当性の認められるのは五〇、〇〇〇円と認める。

(三)  原告豊嶋の請求する飛行機キャンセル代、栄養品代、見舞品代、事故関係者打合費用(お茶代)については、いずれも本件事故と相当性を認めることができない。

(四)  〔証拠略〕によれば、同原告は本件事故当時株式会社宣伝技術サービスの代表取締役をし、宣伝の仕事を行つており、月給一〇万円を得ており、これより健康保険料、厚生年金、所得税等を控除した残額は八七、〇一二円であつたこと、本件事故により前認定のとおりの症状があつたけれども、労働能力は低下したけれどもなんとか勤務を続け昭和四〇年八月までは事故前と同額の給科を得ることができたが、同年九月右会社は倒産したため、同月以降は仕事を失い、給料を得ることができなかつたことが認められ、右事実と、二に認定した症状、治療経過に照らし、原告豊嶋の労働能力喪失の割合をみれば、昭和四〇年九月より昭和四一年六月末までの間は五〇%とみるを相当とし、昭和四一年七月以降昭和四二年四月までの間は二〇%の喪失とみるを相当と認める。そしてこの喪失割合により一ケ月の収益八七、〇一二円につき逸失利益を計算すれば六〇九、〇八四円となる。

(五)  前認定の通院期間、後遺症の程度等一切の事情に照らし原告豊嶋のうくべき慰藉料は七〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(六)  右(一)、(二)、(四)、(五)の合計は一、四八四、五〇八円となる。

四(一)  原告衛藤は本件事故により頭部を打ち脳波に異常を生じ、事故直後厚生年金病院において診察をうけ、その後篠田外科、さらに東京慈恵会大病院に通院したこと、右通院期間は通算し事故より約一ケ月余となつたこと、右病院の治療費として約七、八〇〇円を支払つたこと、アリナミン代三、〇〇〇円を支払つたこと、通院交通費として二四、〇〇〇円を支払つたことが認められ、以上の合計は三四、八〇〇円となる。通学費の請求は本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

(二)  右認定事実によれば原告衛藤の受くべき慰藉料は三〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(三)  右(一)(二)の合計は六四、八〇〇円となる。

五、よつて、本訴請求のうち、原告豊嶋の一、四八四、五〇八円、原告衛藤の六四、八〇〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年六月二九日以降支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める部分を正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

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